WHO(世界保健機構)の精液検査正常値(2021年)は、精液量1.4ml以上、精子濃度1600万/ml以上(1mlあたり1600個)、運動率42%以上、正常携帯率4%以上としています。
ちなみに、精液とは「精漿(せいしょう)」と呼ばれる液体と「精子」の混合物のことを指します。
そして精漿とは、「前立腺」「精嚢」「尿道球腺」の3つの器官から分泌物が協調混合して構築される複合液のことです。
実際に精子の量は精液全体のわずか2~5%ほどです。
過去の最大規模の男性の精子データ調査
エルサレム・ヘブライ大学の疫学者Hagai Levine博士は、1973年から2011年までの間に実施された男性の精子データに関する約200近い研究結果を総合的に取りまとめて評価するといった過去最大規模の調査を行いました。
その結果、北アメリカ、ヨーロッパ全土、アジアの一部、オーストラリア、ニュージーランドにおいて、40歳未満の男性の精子が著しく半減していることを報告しています。
・精子濃度:52.4%減少
・総精子数:59.3%減少
精子減少のペースが推測していたものを遙かに上回っており、すでに生殖に悩む人々が増えている現状にありますが、比較的近い将来にピークを迎えてしまうのではないかと、この論文の共著者も述べています。
世界的な精子数減少の原因は?
精子数の減少が北アメリカ、ヨーロッパ全土、アジアの一部、オーストラリア、ニュージーランドの男性に見られたということは、その原因となる生活習慣や環境因子が存在しているということになります。
しかし、減少を加速させているものが何かということは、はっきりわかっていません。
ただし、原因は1つだけではなく、いくつもの化学物質が環境中で混じり合い、それぞれのマイナス効果が拡大されて大きな問題になったことが考えられます。
または、長い時間かけて繰り返しさらされたことが影響しているのかもしれません。
■ 精液が減少する理由
とはいえ、体から見た精液の減少の理由として次のことが考えられます。
① 精子形成障害
男性不妊のおよそ9割の方が該当するといわれています。精子をつくる過程の障害が原因の疾患です。
② 副性器感染症
性感染症の一つクラミジアなどの微生物による前立腺や精巣の炎症で起こる疾患です。
③ 精子輸送路通過障害
精子を運ぶ通路が欠損したり閉塞したりする状態を指します。
④ 性機能障害
EDが原因の射精そのものがが行えない状態を指します。
精液の情報を知るには
精液の情報を知るには、泌尿器科(メンズクリニック)での検査がお勧めです。一般的な精液検査の流れをご紹介しましょう。
① 禁欲期間
まずは、受診して検査日の予約をします。その数日前(通常は3~5日間)から性行為および自慰行為を避けます。
② サンプル採取
クリニックで渡された採精用の清潔な容器に、精液を採取します。クリニック内で採取する場合と、自宅で採取して持って行く方法があります。自宅で採取する場合は、時間が経過したり温度が低くなると正しい検査結果が出にくくなってしまいますので、できるだけ
速やかに提出しましょう。
③ サンプルの検査
基準値(下限) | |
精液の量 | 1.4ml以上 |
精子総数 | 3,900万/射精量 |
総運動率 | 42%以上 |
プログレッシブ運動性 | 30%以上 |
非進行性運動性 | 1%以上 |
不動精子 | 20%以上 |
正規形 | 4%以上 |
活力 | 5%以上 |
④ 結果通知
精液の状態は男性の身体の状況に応じて変わりますので、1回の検査だけでなく、最低でも2回以上の検査で評価するのが一般的です。
精液検査標準化ガイドラインでは、「1ヶ月以内に最低2回の採取」「2回の検査結果の差が大きい場合はさらに検査を行う」などが定義されています。1回目が悪い結果であったとしても、2回目では異常なしと診断される場合もあります。
基準値をベースに、数回の検査データを参考にした適切な見極めが必要ですね。
精液を増やす方法
① 生活習慣の改善
・たばこをやめる
WHOが2010年に5,865人を対象に実施した、喫煙と精液の関係性における研究によると、喫煙が精液の生成や質に悪影響を及ぼすことが示唆されています。
・適切な睡眠
2013年から2014年に中国で行われた男子学生への睡眠時間と精液の調査研究によると、
1日7~7.5時間の睡眠が良質な精液を作り出すことがわかっています。
・適切な体重維持
中国で行われた研究では、BMI18.5未満(低体重)とBMI25以上(過体重)で、精液量や総精子数が減少傾向であったと報告されています。
・適度な運動
男性397名を対象とした調査では、適度なペースの有酸素運動を行うことで、精子へのダメージが減ることが指摘されています。
・ぴっちり下着は避けましょう
睾丸(精巣)は熱に弱く、温度が上昇すると精子を作る造精機能が低下します。ブリーフやタイトなジーンズなどで圧迫すると、熱がこもりやすい状態になりますので、ご用心を。
・サウナ、長風呂は控えましょう
股間を高熱にさらすことは、造精機能に悪影響を及ぼします。
・膝上でのパソコン操作には注意しましょう
パソコンを使っていると、次第に熱を発してきますよね。膝の上に置いて使えば、股間へとその熱が伝わり、熱に弱い精子には大打撃です。どうしても使う時は短時間で終わらせましょう。
・自転車で股間を刺激することなかれ
長時間、前傾姿勢のライディングを頻繁にすると、サドルが当たって男性器付近の血流が悪くなり、EDや精子の減少、運動率の低下を招く恐れがあります。自転車に乗る際には、男性器付近の圧迫を避けて、血行の確保を心がけましょう。
・育毛剤に気をつけましょう
AGA(男性型脱毛症)の治療のうち、フィナスデリドやデュタステリドを主成分とする治療薬には、男性ホルモンの作用を抑える働きがあります。また、副作用として、性欲減退や精子数の減少、EDが起こることもあります。妊活中はこのタイプの育毛剤は避ける方が無難でしょう。
②食生活の改善
精液量を増やすには、次の食材がお勧めです。
栄養素 | 食材例 |
亜鉛 | 牡蠣、豚レバー、ウナギ など |
ビタミンD | 鮭、サンマ、しらす、きのこ類 など |
ビタミンK | 納豆、海藻、緑黄色野菜 など |
ビタミンC | ブロッコリー、キウイ、イチゴ など |
ビタミンE | アーモンド、カボチャ など |
DHEA(デヒドロエピアンドロステロン) | 山芋、里芋 など |
葉酸 | 藻類、緑黄色野菜、レバー、卵、大豆製品、チーズ など |
コエンザイムQ10 | イワシ、豚肉、大豆、ごま など |
DHA・EPA | サバ、イワシ、サンマ、ブリ、アジ など |
アルギニン | もも肉、ヒレ肉、大豆、マグロ、卵黄 など |
逆に取りすぎないようにしたい食品は、
・トランス脂肪酸(マーガリン、ショートニング、それらを含む加工食品:ポテト系スナック菓子、コーン系スナック菓子、菓子パンなど)
・カフェインの取り過ぎに注意を
昔、会社の上司が、「ねばねばする料理が出てくると、ため息がでてしまうんだよね…」と哀愁こめておっしゃっていました。
奥様からの「今晩、楽しみにしてるわ(ハート)」無言のメッセージだったのでしょうが、男性にもいろんな日がありますよね。
適度に運動や趣味でストレスを発散してバランスのいい食事を心掛けたいですね!
著:相徳かおり